HDDの複製作業において、単なるファイルコピーとは異なる「デュプリケーターによるセクター単位のコピー」は、業務で使うシステム環境や保守現場などで高く評価されています。
本コラムでは、弊社のJetCopier HDCシリーズを例に、HDDデュプリケーターのコピー仕様、注意点、そして活用のポイントを詳しくご紹介します。
1. セクター単位コピーとは?
HDDデュプリケーターでは、ファイル単位ではなく「セクター単位」でコピーを行います。これは、HDD上のすべてのデータ――OSのシステム領域、ファイルシステム情報、隠しファイル、ブート領域、場合によってはメーカー固有の保護領域までも含めて、ビット単位で完全にコピーする方式です。
つまり、WindowsなどのOSで通常見えない領域も含めて、ソースディスク(元のHDD)の内容が物理的にまったく同じ配置・構成で複製されるということです。
これにより、単なるファイルコピーでは対応できないような「起動ディスク」「リカバリ領域付きシステム」「暗号化ドライブ」の複製も可能になります。
2. 書き込み先(ターゲットHDD)の扱い
コピーの際、ターゲットHDDにはソースHDDと同一のアドレス情報・パーティション構成が上書きされるため、複製先のディスクに既存のデータやパーティションが存在していても、完全に上書きされます。
これは裏を返せば、「コピー後にターゲット側のパーティション構成を変更することはできない」ということでもあります。
あらかじめターゲットHDDを空にしておく必要はありませんが、既存データはすべて失われる点には注意が必要です。
3. デュプリケーターでできることとできないこと
項目 | 内容 |
---|---|
できること | セクター単位の完全コピー(ブート領域、隠し領域含む) 複数HDDの同時コピー消去機能との併用(DoD消去など) |
できないこと | 特定のフォルダやファイルのみのコピーパーティションサイズの変更デフラグ(断片化の解消) |
ファイル単位のバックアップとは異なり、HDD全体の「状態」までもそのまま再現するのがデュプリケーターの特長です。
4. コピー方式とその特徴
JetCopier HDCシリーズでは、コピー方法を3つのモードから選択できます。それぞれの違いがありますので、状況に応じて使い分けてください。
「システム&ファイル」の場合のコピー内容

「オールパーティション」の場合のコピー内容

「HDDゼンタイ」の場合のコピー内容

コピーモード | 特徴 | 推奨用途 |
---|---|---|
System & File | 使用中の領域とOS関連ファイルのみコピー。未使用領域は省略される。 | 容量を節約したい場合、基本構成だけの複製 |
All Partition | すべてのパーティション情報をコピー(未使用領域は含まない) | OS、回復領域、特殊領域のある構成の複製 |
Whole HDD | HDD全体をビット単位で完全コピー。未使用領域も含む。 | 精密なクローンが必要な場面。復旧用途など |
5. コピー失敗の原因と容量の関係
コピー元(ソース)とコピー先(ターゲット)の容量関係にも注意が必要です。
ケース1:ターゲットHDDがソースより大きい場合
コピーは正常に完了します。ターゲットの余った容量は「未割り当て領域」として残るため、その後の運用で活用できます。
例:ソースのHDDが320GBで、ターゲットのHDDが500GB
ケース2:ターゲットHDDがソースより小さい場合
この場合、コピーは失敗します。物理的に全データが入りきらないためです。
HDCシリーズでは、コピー中に「Fail」と表示され、どのポートで失敗したかを操作パネルで個別に確認できます。
例:ソースのHDDが500GBで、ターゲットのHDDが320GB
6. DoD方式による強力な消去機能
JetCopier HDCシリーズには、米国国防総省(DoD)準拠のデータ消去機能も搭載されています。
「DoD+コンペア」モードでは以下のような処理が行われます:
- 1回目の上書き:00(全ビットゼロ)
- 2回目の上書き:FF(全ビット1)
- 3回目の上書き:ランダムなデータ
- コンペア処理:ランダムデータが正しく書き込まれたか検証
この処理を経ることで、復元不可能な状態にまでデータを完全消去できます。
ただし、処理時間は非常に長く、たとえば1TBのHDDではコピーの約4倍以上の時間を要することがあります。
大量のHDDを処理する場合は、作業スケジュールに十分な余裕をもたせることが重要です。
まとめ:HDDデュプリケーターを最大限に活かすには
HDDデュプリケーターは、単なるコピー機ではなく、セクター単位の精密な複製・消去が可能な「プロ向けツール」です。
運用で重要なのは、以下のポイントをしっかり押さえることです。
- コピー元・先の容量差に注意
- コピー方式を状況に応じて選択
- 長時間かかるDoD処理は計画的に実施
- 複製先は完全に上書きされるため、事前にバックアップを取っておく
特に、OSや特殊な環境構成を含む業務用HDDの複製では、ファイルコピーでは不十分な場合が多く、デュプリケーターの活用が大きな意味を持ちます。
正確な知識で、より安全で効率的なデータ運用を実現しましょう。